九龍・熱拳再装填 1話 1
圧倒的に更新が早いなぁ…。色々と自己解釈やってます。
夷澤と序盤で関わったり、最初から八千穂と知り合いだったり。小者扱いされる夷澤の扱いをどうにかしたい、ってのがあったので、夷澤を主役のライバルに抜擢したんです。
コンテンツ熱拳
2004年 9月 21日
3-C教室――朝
女性教師に連れられ、恭二は教室へと入る。
「みんな静かに」
女性教諭が手を叩いた。本礼が鳴ったというのに、生徒達は騒いでいたのだが、そんな中でも女性教師の声は良く通った。
「今日から、みんなと一緒にこの天香學園で学ぶことになった――転校生の御神恭二君です」
――ホント、綺麗な人だな……。
自分の事を紹介する年上の女性教師にボーっと見惚れている。
恭二はいわゆるムッツリスケベという奴だった、とはいえ礼節は忘れないが。
「御神君は、今まで外国で生活していて、先日、日本に戻ってきたばかりなの。早く日本に慣れてほしいというご両親の希望で全寮制の本校に転校してきました。
寮生活では、分からない事が多いと思いますが、みんな、仲良くしてあげて下さいね」
そう言うと、女性教師は恭二の方を向き、柔らかい笑みを向けた。
「私は担任の雛川亜柚子。私の今学期から、この今学期から、この學園に赴任してきたばかりなの。お互い、卒業まで頑張りましょうね?」
「はい、よろしくお願いします」
恭二は丁寧に頭を下げた。
「ええ。これからよろしくね。御神君」
雛川が頷いた。そして、教室を見回す。
「それじゃ、御神君の席は――」
空いてる席はいくつかあったのだが、女子が急に手を挙げる。
「ハイッハイッ!」
髪を左右でまとめたお団子頭で鳴きぼくろが印象に残る女子だった。
「なァに、八千穂さん」
――同じクラスだったんだ。
恭二が驚く、見覚えがあった。
雛川が名前を読んだ女子こそが恭二の友達である八千穂だったのだ。
その八千穂は自分の隣を差し、
「あたしの隣が空いてま~す」
「そうね、この前の席替えで丁度、空いていたわね」
その席へと移動するように雛川が言うのだが、一気に沸いたクラスの喧騒がかき消した。
「きゃ~、明日香積極的~ッ」
「ずる~い、自分だけ~」
「昔からの友達っていってたけど、もしかして~?」
「もう……そんなんじゃないよ」
そんなクラスの声に八千穂は照れた顔をする。好意は好意でも友達への親切心だ。
「それじゃ、御神君。八千穂さんの隣の席に。何か分からない事があったら、八千穂さん、教えてあげてね」
「は~いッ」
八千穂が席に着く、
「まさか、八千穂さんと一緒のクラスになるなんて、夢にも思ってなかったよ」
「あたしもだって、よろしくね~」
恭二が自分の席に腰かけると、八千穂はにっこりと笑って歓迎した。
「それじゃ、席に着いて。出席を取ります」
そして、恭二の「学校生活」が始まった。
3-C教室――昼休み
チャイムが鳴り、授業が終了すると、教室内はわきかえった。
進学校なのだから、授業中はそのイメージ通り静かだが、休み時間となると打って変わって騒がしくなる。
「お腹空いた~!!」
「どうする? 食堂行く? それとも売店でパン買う?」
「う~ん。どうしよっか~」
――お昼か。
女子の会話を聞いていたらお腹が空いてきたようだ。
――購買でカレーパンを買おうかな、定番だし。
この男は毎食カレーを食べる程のカレー好きだ、習慣になっているようでやはりカレーを食べようとしている。
購買に行こうと席を立ちあがろうとしたところで、隣の席にいる八千穂が声を掛けてきた。
「三上だったのに御神って名字に変わっててちょっと驚いたけど、きょーちゃん、久しぶりだね~。どう、この學園は? 楽しくやっていけそう?」
「もちろん。八千穂さんが一緒のクラスだって分かって嬉しいよ」
実の所、学校そのものは好きではないのだが、八千穂のような友達がいるなら心強いと、笑って返す。
そして名字が変わっているのは特別な事情はない。小学生の頃、一人前になったら御神と名乗れと小学生の頃に、とある男に言われたからだ。
「あははッ、良かったァ。転校してきた事、後悔してからどうしようかと思ったよ。昔みたいに仲良くやってこうねッ」
「うん」
恭二が手を振ると、八千穂も手を振った。
「……っと、あたしは、こんな話をしたいんじゃなくて~。丁度、お昼休みだし、校内を案内してあげようと思ったんだ」
「いやいや、悪いよ。それに八千穂さん、お昼は?」
自分で校内を見て回ると恭二が言おうとしたが、八千穂は恭二の手を取り、
「ほら、早くしないと、お昼休みが終わっちゃう。行こッ、行こッ」
――変わってないな。
昔と同じだと恭二は嬉しそうに笑っていた。
2F図書室
恭二が最初に連れてこられたのは2階にある図書室だった。
――すごいな……。
図書室とは思えないほどの蔵書の量を誇っていた。
トレジャーハンターは現地での探索がメインと思われがちだが、実際は文献を元に調査をする。文献探しが八割ないし九割なのだ。
それに恭二は慎重派だ、遺跡を踏破するための資料は多いに越した事はない。
「ここが図書室だよ。たくさん本があるでしょ? この學園が創立された頃から残ってる本もあるんだって。奥の部屋が書庫室になっていてそういう古い貴重な本が収められているんだよ」
「へェ、それは面白そうだね」
元々本を読むのが趣味なのだ、ロックフォードの名前を知ったのも姉から偶然手渡された本からだった。
「え~と、確かあのあたりに図書委員の子が隠している書庫室の鍵がある筈なんだけど……。どこだっけなァ……」
八千穂が周囲をキョロキョロと辺りを探し始める。
「八千穂さん、こっそり中に入るのはよくないって……」
慌てて恭二が八千穂を止めようとするが、背後からしてきた声に振り向いた。
「古人曰く――、『書物には書物の運命がある。運命を決めるのは読者の心である』――」
声を掛けてきたのは、メガネを掛けた女子生徒だ。それも古いデザインの眼鏡だった。
「本をお探しですか? え~と……? 初めて見る方ですね。もしかして……、八千穂さんが言ってたC組に来たという転校生ですか。初めまして。私の名前は、七瀬月魅といいます」
「はい、そうです。僕の名前は御神恭二といいます」
七瀬に会釈を返す。
「ここの本を管理する図書委員をやらせて頂いています。ここにある本の事で、分からない事があったら、何でも聞いて下さい」
「それは助かります。本を読んだり、調べものが好きなので」
恭二はフッと笑った。
「はい、いつでもどうぞ。そうだ、あなたに友情に関する言葉を教えてあげましょう。古人曰く――、『友情は瞬間が咲かせる花であり。時間が実らせる果実である』――真の友情とは、長い時を駆けて育まれていくものです。
ですが、それが始まるきっかけは、至る所にあるのです。『友人がいなければ世界は荒野に過ぎない』――心を閉ざさなければ、きっとこの新たな場所で、多くの友人が出来る事でしょう」
そこで恭二が吹き出した。
「……あの、どうかしたんですか?」
七瀬が不思議な顔をするのだが、恭二は横に首を振る。
「いえ、何でもないです……」
――荒野って言葉に反応したって言えないなぁ……。
至極真面目な話だったのだから、荒野と口笛のRPGを思い出しましたなどと七瀬に言える訳がない。それに七瀬も知らないだろう。
そして、八千穂が七瀬に気付いたようだ。
「あッ、月魅ッ!! いつからそこに……」
八千穂がギョっとした顔する。
「八千穂さん……。何か探し物ですか?」
七瀬は笑っているが、作り笑いというやつだ。怒っている。
「え~と……、面白い本ないかなァって」
「書庫の鍵なら、そこにはありませんよ。私がいない時に、無断で書庫に入る生徒がいるので、別の場所に隠しました」
アワアワとする八千穂を見て七瀬が溜息を吐く。
「あそこには、皆さんの想像もつかないような、大変価値のある本が眠っているのです。
黴と誇りにまみれた紙の匂い、古いインクのすえた香り、ページをめくる度に響く乾いた音、それら書物は、古人の偉業の信奉者だけが触れる事のできる過去の遺物なのです」
七瀬は一気に捲し立てるのだが、何か思い当たる事があったのか恭二の方を向く。
「御神さんは、《超古代文明》という言葉を知っていますか?」
「ええ、知ってますよ。マヤ遺跡で発掘されたっていう、高度な技術で作られた水晶の髑髏とか」
それら探しに来たとまでは言わないが、知っている事を臭わす程度なら問題ないだろうと判断した。
「それならば、話は早いですね。例えば《オーパーツ》と呼ばれる古代の遺物の存在を見てもわかるように、確かに、地球上に高度な文明が栄えていた可能性は否定できないと思うんです」
オーパーツ――OOPARTSと英語で表記される場違いな工芸品と訳される遺物の事だ。これは、どの辞書に載っていない造語である。
その時代にはあり得ない知識が盛り込まれた知識オーパーツ、もう一つが、その時代の技術水準では製作するのが困難とされるもの――技術オーパーツの二種類に分けられる。
――ここまで詳しいなんて、《協会》なら放っておかないだろうな……。
自分が協会のスカウトらならば、七瀬を真っ先に協会に勧誘していると恭二は思った。七瀬の《超古代文明》に関する造詣の深さは相当なものだったからだ。
「《超古代文明》かァ……。まッ、まァ、そういう歴史ロマンっていうの? 想像すると楽しいよね」
対照的に八千穂は興味なさげで、引き気味だった。
「八千穂さん……、バカにしてますね?」
七瀬が顰めっ面を見せていた。
「そッ、そんな事ないよッ! ねェ、きょーちゃん」
恭二に話を振って助けを求める。
「うん、七瀬さんの話は面白いよ。《超古代文明》の話が出来る人ってなかなかいないからね」
興味深いと恭二は言った。
「そッ、そんな熱い瞳で見られても……」
予想外の反応に八千穂は余計に引いているが、七瀬は理解者が出て来たと喜んでいる。
「私の話を、そんなふうに情熱を持って聞いてくれた人は初めてです。御神さんは、本当に《超古代文明》が存在したと思っていますか?」
「否定はできないと思う」
ヘラクレイオンの遺跡などの遺跡群など現代文明では説明できない遺跡を調査しているから出た言葉だ。
「そうですよねッ! 《超古代文明》が存在したのか否か――はっきりとした証拠がないと事は、逆に、そういう文明が存在しなかったとも言い切れないという事ですからね」
興に乗った七瀬が身を乗り出してくる。
「まッ、存在してもしてなくても、どっちでもいいじゃない。遠い昔の話なんだし」
そこで八千穂が冷や水を掛ける。とはいえ、超古代文明など眉唾ものと思う方が普通の感覚だ。
「それは違いますッ!」
七瀬が口を尖らせた。
「《超古代文明》の遺産は、今もどこかで発掘される時を待っているんですッ。自分たちの叡智を受け継ぐ者を探して……」
「あははは……」
七瀬のセリフに恭二の頬が引きつった。砂漠でシュミットに言われた言葉によく似ていたからだ。
「う……う~ん、そう?」
八千穂は七瀬の勢いについていけず苦笑いをしている。
だから、七瀬は八千穂の興味を引きそうな話題を口にした。
「実はですね……。私が思うに、この天香學園にも何か大きな秘密が隠されているような気がするんです。
書庫に収納されているこの學園の歴史などが記された古い文献を読んでいると、いたるところにそういう謎めいた痕跡が残されています」
「この學園に秘密ゥ?」
胡散臭いという顔をする八千穂だが、食いついているのは明白だ。
「はい。私は、墓地が怪しいと睨んでいるんですけど」
「墓地……?」
墓地と聞いた恭二が電でも落ちたのでないかというぐらい身体を固くした。
「あの、御神さん……?」
「あー、月魅。きょーちゃんって怖がりでね。昔っから墓地とか幽霊がダメなんだ」
心配した七瀬が声を掛けるのだが、八千穂が苦笑いしつつフォローした。
トレジャーハンターであるのに、幽霊が苦手というのは恭二のコンプレックスだった。
「そっ、それは昔の話だよ。で、この學園に墓地なんてあるんだ」
恭二は気を取り直して、八千穂に尋ねた。八千穂はうんと頷いて、
「校則で墓地への立ち入りは禁止されているけど、確かに、あそこは、怪しいよねェ」
――敷地に墓地なんて、どういう學園なんだ……?
恭二は大きくため息を吐く。だが、怖がっている場合ではない、遺跡がある可能性があるのだから。
「あの、その墓地について――」
墓地について訊ねようとした時だ、いきなり七瀬が大声を張り上げる。
「あァッッッ、もうこんな時間にッ。昼休みの間に貸し出している本を回収しなくちゃならないんだったわッ。すみませんが、続きはまた今度。図書室も鍵を閉めていきますから、また明日にでも来て下さい」
七瀬に促され、二人は図書室の外に出た。
「《超古代文明》の遺産かァ。何か面白そうだよねッ。今度、誰にも見つからないように、こっそり夜にでも調べに行ってみない?」
八千穂の声は明るい。超古代文明には興味はなさそうだが、一度火が点いたら止まらないのは子供の頃から変わっていない。
「いやいや、止めておこうよ」
「やっぱり、墓地とか幽霊が怖いんじゃない。でも、調べれば何か――ん?」
止めようとする恭二に八千穂がそこで言葉を切った。ピアノの音が聞こえてきたからだ。
「今、音楽室でピアノの音がしなかった?」
「音がしたね」
――なんだろう?
だが恭二はピアノの音より、強烈な違和感が気になった。
「この時間は、誰も使っていないはずだけど……。もしかして、音楽室に出るっていう幽霊だったりして~」
八千穂は、舌を出してだらりと胸の前に両手を下げて見せる。
「あのね……、幽霊なんていな――」
恭二は苦い顔をするのだが、八千穂は声を潜めて語り始める。
「実はさ……大きな声では言えないけど、この學園には九つの怪談があるんだ。その最初の怪談が『一番目のピアノ』――。
誰もいないはずの音楽室からピアノの音がするってよくある話なんだけどね。
何でも、昔、音楽室で事故があって、その事故で手に怪我をした女生徒の霊がピアノを弾きに現れるんだって。
そして、キレイな手をしている人を襲って、精気を吸い取っちゃうんだってさ。精気を吸い取られた人は、干からびて、ミイラのようになるとかならないとか……」
「あのね、八千穂さん。そんなのただの噂だよ。よくある怪談じゃないか」
恭二が肩を竦める。
「どうせ、うわさ話だろうけどね。本当だったら面白かったのになァ」
八千穂も怪談の事など本気にしていないようで、不謹慎な事を言っている。
「ねェねェ。ちょっとドアの隙間から音楽室の中、覗いてみよっか? もしかしたら、幽霊を見れるかもしれないし」
「そういうトコ、昔から変わらないよね……。わかったよ」
と、恭二は降参だといい、渋々八千穂に付き合う事にした。
二人がドアの隙間から覗き込むと黒い遮光カーテンが閉められ、ピアノの前に一人、背の高い男子生徒が佇んでいるだけだ。
なんとなくカマキリを思わせるしなりのある長い手足が特徴なのだが――、
――莎草……?
六年前に凶行に及んだ高校生の顔が脳裏を過った。むろん、似ても似つかないのだが。
しかし、感じた違和感はその莎草に似ていた。
「彼は?」
恭二が訊ねると、八千穂は顔を上げ、
「あれは……A組の取手クン? 電気も付けないで、何してんだろう……?」
「……」
――声を掛けてみようか。
恭二は音楽室に入ろうとしたのだが、八千穂が止める。
「何か声をかけづらい雰囲気だね……。行こ、きょーちゃん。別の場所を案内してあげるよ」
「わかった。お願いするよ」
後ろ髪を引かれる思いがあったのだが、結局八千穂に引っ張られるのだった。
2に進む
夷澤と序盤で関わったり、最初から八千穂と知り合いだったり。小者扱いされる夷澤の扱いをどうにかしたい、ってのがあったので、夷澤を主役のライバルに抜擢したんです。
コンテンツ熱拳
2004年 9月 21日
3-C教室――朝
女性教師に連れられ、恭二は教室へと入る。
「みんな静かに」
女性教諭が手を叩いた。本礼が鳴ったというのに、生徒達は騒いでいたのだが、そんな中でも女性教師の声は良く通った。
「今日から、みんなと一緒にこの天香學園で学ぶことになった――転校生の御神恭二君です」
――ホント、綺麗な人だな……。
自分の事を紹介する年上の女性教師にボーっと見惚れている。
恭二はいわゆるムッツリスケベという奴だった、とはいえ礼節は忘れないが。
「御神君は、今まで外国で生活していて、先日、日本に戻ってきたばかりなの。早く日本に慣れてほしいというご両親の希望で全寮制の本校に転校してきました。
寮生活では、分からない事が多いと思いますが、みんな、仲良くしてあげて下さいね」
そう言うと、女性教師は恭二の方を向き、柔らかい笑みを向けた。
「私は担任の雛川亜柚子。私の今学期から、この今学期から、この學園に赴任してきたばかりなの。お互い、卒業まで頑張りましょうね?」
「はい、よろしくお願いします」
恭二は丁寧に頭を下げた。
「ええ。これからよろしくね。御神君」
雛川が頷いた。そして、教室を見回す。
「それじゃ、御神君の席は――」
空いてる席はいくつかあったのだが、女子が急に手を挙げる。
「ハイッハイッ!」
髪を左右でまとめたお団子頭で鳴きぼくろが印象に残る女子だった。
「なァに、八千穂さん」
――同じクラスだったんだ。
恭二が驚く、見覚えがあった。
雛川が名前を読んだ女子こそが恭二の友達である八千穂だったのだ。
その八千穂は自分の隣を差し、
「あたしの隣が空いてま~す」
「そうね、この前の席替えで丁度、空いていたわね」
その席へと移動するように雛川が言うのだが、一気に沸いたクラスの喧騒がかき消した。
「きゃ~、明日香積極的~ッ」
「ずる~い、自分だけ~」
「昔からの友達っていってたけど、もしかして~?」
「もう……そんなんじゃないよ」
そんなクラスの声に八千穂は照れた顔をする。好意は好意でも友達への親切心だ。
「それじゃ、御神君。八千穂さんの隣の席に。何か分からない事があったら、八千穂さん、教えてあげてね」
「は~いッ」
八千穂が席に着く、
「まさか、八千穂さんと一緒のクラスになるなんて、夢にも思ってなかったよ」
「あたしもだって、よろしくね~」
恭二が自分の席に腰かけると、八千穂はにっこりと笑って歓迎した。
「それじゃ、席に着いて。出席を取ります」
そして、恭二の「学校生活」が始まった。
3-C教室――昼休み
チャイムが鳴り、授業が終了すると、教室内はわきかえった。
進学校なのだから、授業中はそのイメージ通り静かだが、休み時間となると打って変わって騒がしくなる。
「お腹空いた~!!」
「どうする? 食堂行く? それとも売店でパン買う?」
「う~ん。どうしよっか~」
――お昼か。
女子の会話を聞いていたらお腹が空いてきたようだ。
――購買でカレーパンを買おうかな、定番だし。
この男は毎食カレーを食べる程のカレー好きだ、習慣になっているようでやはりカレーを食べようとしている。
購買に行こうと席を立ちあがろうとしたところで、隣の席にいる八千穂が声を掛けてきた。
「三上だったのに御神って名字に変わっててちょっと驚いたけど、きょーちゃん、久しぶりだね~。どう、この學園は? 楽しくやっていけそう?」
「もちろん。八千穂さんが一緒のクラスだって分かって嬉しいよ」
実の所、学校そのものは好きではないのだが、八千穂のような友達がいるなら心強いと、笑って返す。
そして名字が変わっているのは特別な事情はない。小学生の頃、一人前になったら御神と名乗れと小学生の頃に、とある男に言われたからだ。
「あははッ、良かったァ。転校してきた事、後悔してからどうしようかと思ったよ。昔みたいに仲良くやってこうねッ」
「うん」
恭二が手を振ると、八千穂も手を振った。
「……っと、あたしは、こんな話をしたいんじゃなくて~。丁度、お昼休みだし、校内を案内してあげようと思ったんだ」
「いやいや、悪いよ。それに八千穂さん、お昼は?」
自分で校内を見て回ると恭二が言おうとしたが、八千穂は恭二の手を取り、
「ほら、早くしないと、お昼休みが終わっちゃう。行こッ、行こッ」
――変わってないな。
昔と同じだと恭二は嬉しそうに笑っていた。
2F図書室
恭二が最初に連れてこられたのは2階にある図書室だった。
――すごいな……。
図書室とは思えないほどの蔵書の量を誇っていた。
トレジャーハンターは現地での探索がメインと思われがちだが、実際は文献を元に調査をする。文献探しが八割ないし九割なのだ。
それに恭二は慎重派だ、遺跡を踏破するための資料は多いに越した事はない。
「ここが図書室だよ。たくさん本があるでしょ? この學園が創立された頃から残ってる本もあるんだって。奥の部屋が書庫室になっていてそういう古い貴重な本が収められているんだよ」
「へェ、それは面白そうだね」
元々本を読むのが趣味なのだ、ロックフォードの名前を知ったのも姉から偶然手渡された本からだった。
「え~と、確かあのあたりに図書委員の子が隠している書庫室の鍵がある筈なんだけど……。どこだっけなァ……」
八千穂が周囲をキョロキョロと辺りを探し始める。
「八千穂さん、こっそり中に入るのはよくないって……」
慌てて恭二が八千穂を止めようとするが、背後からしてきた声に振り向いた。
「古人曰く――、『書物には書物の運命がある。運命を決めるのは読者の心である』――」
声を掛けてきたのは、メガネを掛けた女子生徒だ。それも古いデザインの眼鏡だった。
「本をお探しですか? え~と……? 初めて見る方ですね。もしかして……、八千穂さんが言ってたC組に来たという転校生ですか。初めまして。私の名前は、七瀬月魅といいます」
「はい、そうです。僕の名前は御神恭二といいます」
七瀬に会釈を返す。
「ここの本を管理する図書委員をやらせて頂いています。ここにある本の事で、分からない事があったら、何でも聞いて下さい」
「それは助かります。本を読んだり、調べものが好きなので」
恭二はフッと笑った。
「はい、いつでもどうぞ。そうだ、あなたに友情に関する言葉を教えてあげましょう。古人曰く――、『友情は瞬間が咲かせる花であり。時間が実らせる果実である』――真の友情とは、長い時を駆けて育まれていくものです。
ですが、それが始まるきっかけは、至る所にあるのです。『友人がいなければ世界は荒野に過ぎない』――心を閉ざさなければ、きっとこの新たな場所で、多くの友人が出来る事でしょう」
そこで恭二が吹き出した。
「……あの、どうかしたんですか?」
七瀬が不思議な顔をするのだが、恭二は横に首を振る。
「いえ、何でもないです……」
――荒野って言葉に反応したって言えないなぁ……。
至極真面目な話だったのだから、荒野と口笛のRPGを思い出しましたなどと七瀬に言える訳がない。それに七瀬も知らないだろう。
そして、八千穂が七瀬に気付いたようだ。
「あッ、月魅ッ!! いつからそこに……」
八千穂がギョっとした顔する。
「八千穂さん……。何か探し物ですか?」
七瀬は笑っているが、作り笑いというやつだ。怒っている。
「え~と……、面白い本ないかなァって」
「書庫の鍵なら、そこにはありませんよ。私がいない時に、無断で書庫に入る生徒がいるので、別の場所に隠しました」
アワアワとする八千穂を見て七瀬が溜息を吐く。
「あそこには、皆さんの想像もつかないような、大変価値のある本が眠っているのです。
黴と誇りにまみれた紙の匂い、古いインクのすえた香り、ページをめくる度に響く乾いた音、それら書物は、古人の偉業の信奉者だけが触れる事のできる過去の遺物なのです」
七瀬は一気に捲し立てるのだが、何か思い当たる事があったのか恭二の方を向く。
「御神さんは、《超古代文明》という言葉を知っていますか?」
「ええ、知ってますよ。マヤ遺跡で発掘されたっていう、高度な技術で作られた水晶の髑髏とか」
それら探しに来たとまでは言わないが、知っている事を臭わす程度なら問題ないだろうと判断した。
「それならば、話は早いですね。例えば《オーパーツ》と呼ばれる古代の遺物の存在を見てもわかるように、確かに、地球上に高度な文明が栄えていた可能性は否定できないと思うんです」
オーパーツ――OOPARTSと英語で表記される場違いな工芸品と訳される遺物の事だ。これは、どの辞書に載っていない造語である。
その時代にはあり得ない知識が盛り込まれた知識オーパーツ、もう一つが、その時代の技術水準では製作するのが困難とされるもの――技術オーパーツの二種類に分けられる。
――ここまで詳しいなんて、《協会》なら放っておかないだろうな……。
自分が協会のスカウトらならば、七瀬を真っ先に協会に勧誘していると恭二は思った。七瀬の《超古代文明》に関する造詣の深さは相当なものだったからだ。
「《超古代文明》かァ……。まッ、まァ、そういう歴史ロマンっていうの? 想像すると楽しいよね」
対照的に八千穂は興味なさげで、引き気味だった。
「八千穂さん……、バカにしてますね?」
七瀬が顰めっ面を見せていた。
「そッ、そんな事ないよッ! ねェ、きょーちゃん」
恭二に話を振って助けを求める。
「うん、七瀬さんの話は面白いよ。《超古代文明》の話が出来る人ってなかなかいないからね」
興味深いと恭二は言った。
「そッ、そんな熱い瞳で見られても……」
予想外の反応に八千穂は余計に引いているが、七瀬は理解者が出て来たと喜んでいる。
「私の話を、そんなふうに情熱を持って聞いてくれた人は初めてです。御神さんは、本当に《超古代文明》が存在したと思っていますか?」
「否定はできないと思う」
ヘラクレイオンの遺跡などの遺跡群など現代文明では説明できない遺跡を調査しているから出た言葉だ。
「そうですよねッ! 《超古代文明》が存在したのか否か――はっきりとした証拠がないと事は、逆に、そういう文明が存在しなかったとも言い切れないという事ですからね」
興に乗った七瀬が身を乗り出してくる。
「まッ、存在してもしてなくても、どっちでもいいじゃない。遠い昔の話なんだし」
そこで八千穂が冷や水を掛ける。とはいえ、超古代文明など眉唾ものと思う方が普通の感覚だ。
「それは違いますッ!」
七瀬が口を尖らせた。
「《超古代文明》の遺産は、今もどこかで発掘される時を待っているんですッ。自分たちの叡智を受け継ぐ者を探して……」
「あははは……」
七瀬のセリフに恭二の頬が引きつった。砂漠でシュミットに言われた言葉によく似ていたからだ。
「う……う~ん、そう?」
八千穂は七瀬の勢いについていけず苦笑いをしている。
だから、七瀬は八千穂の興味を引きそうな話題を口にした。
「実はですね……。私が思うに、この天香學園にも何か大きな秘密が隠されているような気がするんです。
書庫に収納されているこの學園の歴史などが記された古い文献を読んでいると、いたるところにそういう謎めいた痕跡が残されています」
「この學園に秘密ゥ?」
胡散臭いという顔をする八千穂だが、食いついているのは明白だ。
「はい。私は、墓地が怪しいと睨んでいるんですけど」
「墓地……?」
墓地と聞いた恭二が電でも落ちたのでないかというぐらい身体を固くした。
「あの、御神さん……?」
「あー、月魅。きょーちゃんって怖がりでね。昔っから墓地とか幽霊がダメなんだ」
心配した七瀬が声を掛けるのだが、八千穂が苦笑いしつつフォローした。
トレジャーハンターであるのに、幽霊が苦手というのは恭二のコンプレックスだった。
「そっ、それは昔の話だよ。で、この學園に墓地なんてあるんだ」
恭二は気を取り直して、八千穂に尋ねた。八千穂はうんと頷いて、
「校則で墓地への立ち入りは禁止されているけど、確かに、あそこは、怪しいよねェ」
――敷地に墓地なんて、どういう學園なんだ……?
恭二は大きくため息を吐く。だが、怖がっている場合ではない、遺跡がある可能性があるのだから。
「あの、その墓地について――」
墓地について訊ねようとした時だ、いきなり七瀬が大声を張り上げる。
「あァッッッ、もうこんな時間にッ。昼休みの間に貸し出している本を回収しなくちゃならないんだったわッ。すみませんが、続きはまた今度。図書室も鍵を閉めていきますから、また明日にでも来て下さい」
七瀬に促され、二人は図書室の外に出た。
「《超古代文明》の遺産かァ。何か面白そうだよねッ。今度、誰にも見つからないように、こっそり夜にでも調べに行ってみない?」
八千穂の声は明るい。超古代文明には興味はなさそうだが、一度火が点いたら止まらないのは子供の頃から変わっていない。
「いやいや、止めておこうよ」
「やっぱり、墓地とか幽霊が怖いんじゃない。でも、調べれば何か――ん?」
止めようとする恭二に八千穂がそこで言葉を切った。ピアノの音が聞こえてきたからだ。
「今、音楽室でピアノの音がしなかった?」
「音がしたね」
――なんだろう?
だが恭二はピアノの音より、強烈な違和感が気になった。
「この時間は、誰も使っていないはずだけど……。もしかして、音楽室に出るっていう幽霊だったりして~」
八千穂は、舌を出してだらりと胸の前に両手を下げて見せる。
「あのね……、幽霊なんていな――」
恭二は苦い顔をするのだが、八千穂は声を潜めて語り始める。
「実はさ……大きな声では言えないけど、この學園には九つの怪談があるんだ。その最初の怪談が『一番目のピアノ』――。
誰もいないはずの音楽室からピアノの音がするってよくある話なんだけどね。
何でも、昔、音楽室で事故があって、その事故で手に怪我をした女生徒の霊がピアノを弾きに現れるんだって。
そして、キレイな手をしている人を襲って、精気を吸い取っちゃうんだってさ。精気を吸い取られた人は、干からびて、ミイラのようになるとかならないとか……」
「あのね、八千穂さん。そんなのただの噂だよ。よくある怪談じゃないか」
恭二が肩を竦める。
「どうせ、うわさ話だろうけどね。本当だったら面白かったのになァ」
八千穂も怪談の事など本気にしていないようで、不謹慎な事を言っている。
「ねェねェ。ちょっとドアの隙間から音楽室の中、覗いてみよっか? もしかしたら、幽霊を見れるかもしれないし」
「そういうトコ、昔から変わらないよね……。わかったよ」
と、恭二は降参だといい、渋々八千穂に付き合う事にした。
二人がドアの隙間から覗き込むと黒い遮光カーテンが閉められ、ピアノの前に一人、背の高い男子生徒が佇んでいるだけだ。
なんとなくカマキリを思わせるしなりのある長い手足が特徴なのだが――、
――莎草……?
六年前に凶行に及んだ高校生の顔が脳裏を過った。むろん、似ても似つかないのだが。
しかし、感じた違和感はその莎草に似ていた。
「彼は?」
恭二が訊ねると、八千穂は顔を上げ、
「あれは……A組の取手クン? 電気も付けないで、何してんだろう……?」
「……」
――声を掛けてみようか。
恭二は音楽室に入ろうとしたのだが、八千穂が止める。
「何か声をかけづらい雰囲気だね……。行こ、きょーちゃん。別の場所を案内してあげるよ」
「わかった。お願いするよ」
後ろ髪を引かれる思いがあったのだが、結局八千穂に引っ張られるのだった。
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