東京鬼祓師 再々加速 プロローグ 2
書いて見て分かったんですが、ゲーム内テキストの分量、かなり多いっすな……。
鬼祓師 コンテンツ
富士――青木ヶ原樹海
富士山の裾野に広がる樹海で、自殺の名所とイメージされる場所だが、実の所観光地でもある。とはいえ、人の手が入っていない原生林なのだから迷えば遭難してしまう場所ではある。
「とほほ、……参ったな」
切也は足を滑らせ、穴に落ちてしまったのだ。
「おーい!」
とりあえず叫んでみるも、観光コースから外れているのだから助けも期待できない。
「……」
――お姉ちゃんも、こんな風に苦労したんだろうか?
上京した一番上の姉を思い出す。国会図書館に勤務していると豪語していた姉は利き手に奇妙なグローブを着けていた。
その時は何も思わなかったが、自分が今置かれている状況を体験したのではないかと思えてきたのだ、なんとなくではあるが。
「おーい、誰か~」
とりあえず叫んでみる。高い声ながら、よく通る声だった。
「……」
しかし、返ってくるのは木霊だけだ。
喉が渇いたとペットボトルに口を付けた時だ。
「……うーん。確かこの辺から聞こえたような……」
頭上から声がした。溌剌とした印象のある声だ。
顔を上げると、自分と同年代の少女と目が合った。さらに自分より背も高い。
「――あ! 井上クン、見っけ!」
どうやら少女は、切也の事を知っていたようだ。
「僕の名前を知ってる?」
切也が少女に問いかけると、少女は駆け寄り手を差し伸べる。
「やっぱりそうだッ。写真で見た通り。ん~……でも、写真よりもっと男前かな?」
「そう言われるのって何か、恥ずかしいな」
照れから頭を掻く。線が細く背も低く、止めに声も高いのだから一見しただけなら女性に間違えられることが多い。
さらに姉たちが凝った女装をさせるものだから自身のメイクの腕まで上げてしまったのだが。
「まったまたァ~、謙遜しちゃって~。とにかくほら、こっち、上がってきて。よいしょ――っと」
少女には悪気はなかったようだ。切也は少女の手を借り、穴から出る。
「……うん、怪我とかはなさそうだね。この辺、段差すごいからあたしも来る時迷っちゃった」
「君もか。君こそ怪我とか大丈夫?」
切也が少女を見る。見ると擦り傷を絆創膏で塞いでいるのが見えた。
少女は平気だと笑い、
「えーっと、井上切也クン。キミのコトだよね」
「うん、そう。僕だけだと思ってたから嬉しいよ」
切也が頷くと少女は花が咲いたように笑った。
「おおッ、なんかすごい歓迎ムード? えへへッ、あたしも会えて嬉しいよッ」
そして、少女は握手だと右手を差し出し、
「あたし、武藤いちる。キミと同じ高三だよ」
切也も右手で握り返した。
「……えへへ。まさか同じような人がいると思ってなかったから、なんか嬉しいな。急に学校で呼び出し受けて、富士山に行けとか言われた時はどうしようかと思ったけど」
「僕も同じ。ドラマの撮影が終わった後、急に呼び出しを受けて」
「元タレントさんなんだ、へェ~」
武藤と同じだと切也は言った。切也は学校より芸能界で過ごしてきた時間が多いのだから無理からぬところだが。
樹海で迷ったのだからパニックを起こしかけたのだが、武藤のお蔭で助かったといえる。
「でも、一人じゃないってわかったから、ちょっとワクワクしてきたかも!」
いちるが笑うのは不安の裏返しだろう。
「確かに、僕もワクワクしてきた」
いちるといると不思議と笑顔が出て来るのだからそこはいちるの才能というものだろう。
「あ……ねえ、もしかしてキミも妙なアンケート、やらされたコトある?」
ふと思い出したと武藤は言った。
「うん、あった」
思い出したのは図書館でのアンケートだ。どうにも嫌な思い出の過るアンケートではあったが。それを知らないいちるは無邪気にポンと手を叩き。
「やっぱり! あの紙の裏面、変な質問だったもんね。結構昔のコトだったから、すっかり忘れてたけど」
「昔の事だし、覚えている方が変だよ」
いちるは忘れていたようで、切也は自嘲を交えて苦笑した。
「アレでキミやあたしみたいな《眼》を持っている人を探してたみたい」
いちるの言う《眼》――。
心当たりはいくつかあった。「見えないものが見える」ようになるという目らしい。
「……」
黙りこくるのは学校での嫌な思い出が過ったからだ。
――私は切也の事、信じるからね!
それでもどうにか性根を曲げずに済んだのは一番上の姉が励ましの言葉を掛けてくれたからだ。
「こんなの、たまに不思議な物が見えるくらいだと思ってたのに一体、何なんだろ」
「……」
とはいえ嫌な思い出しかないのだから会話は続かない。いちるも似た思い出を持っているのだろう、辛そうだ。
「そういえばもう一人、やっぱり別の学校の制服着た男の子が来てるよ」
わざわざ話題を変えたのはやはり不安を紛らわすためだろう。
「……えっーと、あれ? そういえば、集合場所ってどっちだっけ……」
いちるもまた肝心要の事を忘れていた。
「え? 二人揃って迷子?」
肩を落とす。樹海ではコンパスは役に立たないし、地図は落としてしまったのだから。
「おい、武藤ッ。男子《其ノ一》はいたのか?」
その時、茂みをかき分ける音と、野太い男の声が聞こえた。
「あ、伊佐地センセ! イケメン発見、確保~! こっちこっち~!」
いちるは切也の手を取り、元気よく言う。場違いともいえる言葉を聞いた声の主は手を頭に当て、
「あのなァ……」
大きく溜息を吐いた。
「俺は教師じゃないと、さっき説明したばかりだろ。まッたく……。誰がセンセーだ」
短髪の男――伊佐地は、大柄で鋭い眼光でいちると切也を見ていた。顔の傷跡から、只人ではないと思わされる。
――何者なんだろう……。
男の持つ剣呑な雰囲気に少し警戒してしまうのだが、
「あ、そっか。えっと……じゃあ、なんて呼んだらいい?」
いちるは少し困った顔をして、
「ん―……伊佐地……オジさ――」
「いや、いい。先生でいい。それにしろ」
それを聞いた伊佐地が苦い顔をしていた。
「あはは」
切也がこらえきれず吹き出すのだが、和んでばかりもいられない
「……で、そっちが井上切也か」
伊佐地は切也を見る。
「よく来たな。俺は、国立国会図書館収集部特務課の伊佐地大督だ」
そう言って、右手を差し出す。
「はい、よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
切也は握り返すが、違和感があった。伊佐地が姉と同じ意匠のグローブをしていたからだ。
「あの、伊佐地主任」
「何だ。俺に質問があるのか?」
切也が訊ねると伊佐地はきょとんとした顔をした。
「あ、いえ。井上咲夜って知っています? 僕の姉なんですが……」
「……井上だと。そうか、お前、井上の弟だったのか。こいつは機密も含まれるんでな、試験が終わったら話そう。それより、男子《其ノ二》はどうした?」
渋い顔をする伊佐地は回答は後回しにして、周囲を見回した。いちるの言っていた「もう一人」を探している。
「あれ……? さっきまで近くで一緒に探してたんだど……ドコいっちゃったんだろ」
いちるも見失ってしまったようだ。
しかし、そこに悲壮感はない、元気ないちると頼りがいのある伊佐地がいるのだから、安心感は段違いだ。
「どこだろう……」
切也も周囲を探すが、人影は見当たらない。
「あ、あそこ――」
もう一人を見つけたいちるは、上を指さしていた。
最後の一人は、木の上にいたのだ。
「あいつ、何だってあんなところに……」
死角だったと伊佐地は苦い顔。
「ねー! そんなとこ登って何してるのー!?」
いちるが叫ぶと、木の上にいる少年は視線を落とし、
「捜し物をするには、高いところの方がいい」
視界は良くなるのは事実だが、周囲を雑草に覆われているのだからあまり視界がよくはならないはずだ。
どうにも浮世離れしていると感じさせる少年だ。
「君って変わってるね」
また切也が吹き出した。
「だが――どうやらきみの機動力の方が上だったようだ」
少年が苦笑いをしたような、そんな気がした。
「いいから早く降りて来い。そんなとこに登ってたら、危ないだろうが」
伊佐地が言葉をぶつける。木から落ちれば擦り傷だけでは済まないからだ。
当然の言葉なのだが、
「危ない?」
少年はわからないという顔をする。伊佐地をからかったわけではない。
「これから行く場所の方が危ない……違うか?」
少年の言葉に伊佐地の顔が険しくなる。
「そうだ。だから俺がいる。俺の目の届かないところで勝手に危険に遭うな」
危険だから降りろと伊佐地が言う。
「木登りは慣れてないと危ないよ」
切也も降りるように促した。
「……わかった」
いきなり飛び降りたのには肝を冷やしたが。
「きみが、捜し物……。井上 切也か」
それも切也の目の前に降りてきたのだから。
「雉明 零だ。……よろしく」
驚いた切也もどう言ったらいいのか悩んでしまったのだが、思考を切り替えた。
「僕やいちるちゃんと同じ《眼》を持つ仲間なんだよね。よろしく」
「そう喜ばれると、どう答えていいのかわからないが……。よろしく」
切也が握手を求めると、雉明はやや戸惑ったような顔をした後、握手に応じた。
見た目通り、雉明はやはり浮世離れしている印象だ。
「ともかく、ようやくこれで全員揃ったな」
伊佐地が三人を整列させる。
「お前たちには、これからここで、試験を受けてもらう」
伊佐地が告げた言葉は――、
「日本OXAS認定《封札師》としての資格を問うためのな」
聞いた事のない言葉だった。
「ふう……さつし?」
首を傾げるいちるが切也の方を向くのだが、切也も知らない。
――お姉ちゃんも、その「ふうさつし」って事――?
伊佐地の言葉から読み取れたのは公務員である姉もその封札師ではないかと言うことぐらい。
「……カードアーカイバーと呼ばれる《カミフダ》収集のための極秘エージェントか」
雉明は知っていた。しかし、雉明は無表情。
「その為に、図書館は、ああやって《秘法眼》を持つ者を探していたんだな」
簡素過ぎるアンケートは、裏こそが真の狙いだと雉明は言った。
「雉明、お前、何故それを……」
伊佐地が鼻白んだ。正解だということ。
切也の姉である咲夜もその封札師らしいが、切也ですら知らなかったのだ。伊佐地が驚くのも無理はないというところか。
「……」
しかし、雉明は答えない。雰囲気が悪くなってくるのだが、
「えーっと……なんだかわかんないコトなんだけど……。そもそも、その《カミフダ》って一体、何なの?」
いちるの質問がその雰囲気を破った。いちるの質問は知らないものにとってもっともな事だからだ。
「一言で言うならば、人類にとっての《災厄》だ。古来より多くの人間を狂気に誘い、破滅へと導いた情報の凝縮……。その由来は定かないが、
嘗て地球上に栄えた超古代文明の遺産と言う説が有力だ」
「超古代文明……、ですか」
切也は話が飛び過ぎて理解が追い付かないと言う風な顔をする。余人が聞けば小説かアニメの見過ぎだろうと思うに違いない。
――でも僕たちの《眼》も同じようなもののかな……。
《秘法眼》とて十二分に怪しいものだからだ。とりあえず納得する事にした。
「それは時に一枚のカードであり、一冊の書物や、単なる紙片の形をしている事もある」
伊佐地が噛み砕いて説明してくれた。
「それを見抜く事が出来るのは、情報を視覚で捉える事が可能な眼を持つ者――つまりお前たちのような《秘法眼》を持つ者だけだ」
伊佐地、そして姉の咲夜もまた《秘法眼》を持っているのだ。
――だから僕の言う事を信じてくれたのかな……?
そう感じたのだが、心の中で首を横に振った。
――《眼》がなくたって信じてくれたはずだ。
サバサバとした性格だったが、頼りになる姉であり慕っていたのだから。
「詳しい事はこの情報端末に全部入っている」
と、伊佐地は携帯電話のような情報端末を投げ渡す。三人への配慮だろう。
「各々、時間がある時に確認しておくように」
伊佐地はそこで説明を終えた。自習も大切にしろという事だろう。
「うーん……人に悪さする《カミフダ》を集めるのが《封札師》ってのはなんとなくわかったけど、そんな正義の味方みたいなコト、あたしたちに……出来るの?」
いちるの疑問ももっともだ。《秘法眼》があるだけで対等に戦えるのかという疑問だ。警察や自衛隊のように武器も権限もないのだから。
「出来るさ。お前たちなら。いや――」
伊佐地はフッと笑い。
「これは、お前たちにしか出来ない事だ。《カミフダ》を見定められるという事は、それを正しく扱う力があるという事だからな」
危険な《力》を持つ事の恐ろしさを知っている者だからこそだという。《カミフダ》は自分たちが扱うものでもあるからだ。
「わかりました。力を持つことの重要性と危険性を肝に銘じておきます」
切也が頷く。
「後は、実際にやってみた方が早いだろう――行くぞ」
伊佐地はいい顔をしているとフッと笑った。
富士――風穴入口
伊佐地が案内したのは、人ひとり通れそうなぐらいある風穴だった。
「おお~! これ、洞窟!?」
いちるは洞窟の入り口を見てワクワクと言う風に気を高ぶらせている。
「この風穴は、古くから封札師の認定試験用に使われている場所だ」
そう言う伊佐地が出したのは、二の腕まで半ばまで覆うグローブだ。
「まずは、これを利き手に装着しろ。《カミフダ》の発動の発動を一度に五枚までサポートする封札師専用の装備だ」
言われた通り嵌めてみるが、妙な感覚があった。
「また《カミフダ》を持っていない場合であっても、《秘法眼》の持ち主であれば、手にした武器の能力を最大限に引き出す事ができる。
例え、どんなものであろうとな」
伊佐地の言葉が補強してくれた。このグローブは《カミフダ》を悪用する輩と戦うための装備でもあるのだろう。
「それから、これを渡しておく」
伊佐地が渡したのは一枚のカードだ。
「札、か……。《カミフダ》にしては、情報が少ないように見える」
雉明の言葉にいちるが怯えたような顔を見せると、伊佐地は、安心しろと言う。
「それは《特課試札》と言って通常より情報量を抑えた《カミフダ》」だ。それくらいなら封札師としての《印》を持たないお前たちでも、安全に扱う事が出来る
「試験用の人工の《カミフダ》なんですね」
切也が納得したと頷くと、伊佐地が三人の背を押す。
「それじゃ、しっかりやってこい」
「え……? ど、どういうコト?」
痛みに顔を歪めたいちるが振り向くと伊佐地は厳しい顔を保ったまま、
「言っただろう。やってみた方が早い、と。《封札師》の任務は、カミフダの発見と収集、及び――カミフダの悪用を目論む個人や組織から、その存在を護る事にある」
「それってつまり……」
いちるも驚いた顔を隠せない。
「カミフダだけでなく、悪者とも戦う……ってコト!?」
「……お前たちには、封札師としての戦い――つまり《秘法眼》が可能とするカミフダを使用した戦い方を学んでもらう」
現実離れした言葉に戸惑ういちるに伊佐地は言葉をぶつける。実戦形式の試験なのだ。
「俺は、モニタでお前たちの様子を見ながら、ここでサポートする」
伊佐地はそういうものの漠然とした不安はある。
――友達を励ますのは当然でしょ。
と、姉の言葉を思い出す。
「いちるちゃん、零君。大丈夫、僕がいるよ」
自分が前に出ると言った。収録の際、初めての収録に戸惑う新米のタレントをよく励ましていた。
「そうだ、この班の指揮権だが――井上、お前に預ける、いいな?」
それを聞いた伊佐地が判断を下す。もっとも浮足立っているいちるやポーカーフェイスを保ったままの雉明では不安があるのもあったが。
「わかりました。任せてください」
「よし、頼んだぞ」
頷いた伊佐地は二人に視線を向ける。
「誰か、依存はあるか?」
「んー、あたしは賛成、井上クンならしっかり引っ張ってくれそう。……あたし、方向オンチだし」
いちるは冗談を交えつつ、賛成した。
「雉明はどうだ?」
雉明へと視線を向けるのだが、
「おれは――」
雉明は少し困惑していたようだ。
「井上 切也。おれは、きみを、信じていいのか?」
「みんなこんな試験は初めてだし、不安になる気持ちは分かるよ。だから……、零くんも一緒に頑張ろう」
切也はフッと笑みを見せ、雉明の肩に手を置いた。
「……そうか、きみの笑顔には……不思議な力が、ある。わかった。きみを信じよう」
雉明も頷いてくれたようだ。
「よし、決まりだな。以降は井上を先頭に陣形を組んで行動しろ」
伊佐地は手頃な石に腰掛けて、端末を起動させる。
「それでは、これより封札師認定試験を開始する――」
伊佐地は三人に顔を向ける。
「――探査開始、健闘を祈る」
三人は顔を合わせて頷いた後、風穴へと踏み入れたのだった。
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富士――青木ヶ原樹海
富士山の裾野に広がる樹海で、自殺の名所とイメージされる場所だが、実の所観光地でもある。とはいえ、人の手が入っていない原生林なのだから迷えば遭難してしまう場所ではある。
「とほほ、……参ったな」
切也は足を滑らせ、穴に落ちてしまったのだ。
「おーい!」
とりあえず叫んでみるも、観光コースから外れているのだから助けも期待できない。
「……」
――お姉ちゃんも、こんな風に苦労したんだろうか?
上京した一番上の姉を思い出す。国会図書館に勤務していると豪語していた姉は利き手に奇妙なグローブを着けていた。
その時は何も思わなかったが、自分が今置かれている状況を体験したのではないかと思えてきたのだ、なんとなくではあるが。
「おーい、誰か~」
とりあえず叫んでみる。高い声ながら、よく通る声だった。
「……」
しかし、返ってくるのは木霊だけだ。
喉が渇いたとペットボトルに口を付けた時だ。
「……うーん。確かこの辺から聞こえたような……」
頭上から声がした。溌剌とした印象のある声だ。
顔を上げると、自分と同年代の少女と目が合った。さらに自分より背も高い。
「――あ! 井上クン、見っけ!」
どうやら少女は、切也の事を知っていたようだ。
「僕の名前を知ってる?」
切也が少女に問いかけると、少女は駆け寄り手を差し伸べる。
「やっぱりそうだッ。写真で見た通り。ん~……でも、写真よりもっと男前かな?」
「そう言われるのって何か、恥ずかしいな」
照れから頭を掻く。線が細く背も低く、止めに声も高いのだから一見しただけなら女性に間違えられることが多い。
さらに姉たちが凝った女装をさせるものだから自身のメイクの腕まで上げてしまったのだが。
「まったまたァ~、謙遜しちゃって~。とにかくほら、こっち、上がってきて。よいしょ――っと」
少女には悪気はなかったようだ。切也は少女の手を借り、穴から出る。
「……うん、怪我とかはなさそうだね。この辺、段差すごいからあたしも来る時迷っちゃった」
「君もか。君こそ怪我とか大丈夫?」
切也が少女を見る。見ると擦り傷を絆創膏で塞いでいるのが見えた。
少女は平気だと笑い、
「えーっと、井上切也クン。キミのコトだよね」
「うん、そう。僕だけだと思ってたから嬉しいよ」
切也が頷くと少女は花が咲いたように笑った。
「おおッ、なんかすごい歓迎ムード? えへへッ、あたしも会えて嬉しいよッ」
そして、少女は握手だと右手を差し出し、
「あたし、武藤いちる。キミと同じ高三だよ」
切也も右手で握り返した。
「……えへへ。まさか同じような人がいると思ってなかったから、なんか嬉しいな。急に学校で呼び出し受けて、富士山に行けとか言われた時はどうしようかと思ったけど」
「僕も同じ。ドラマの撮影が終わった後、急に呼び出しを受けて」
「元タレントさんなんだ、へェ~」
武藤と同じだと切也は言った。切也は学校より芸能界で過ごしてきた時間が多いのだから無理からぬところだが。
樹海で迷ったのだからパニックを起こしかけたのだが、武藤のお蔭で助かったといえる。
「でも、一人じゃないってわかったから、ちょっとワクワクしてきたかも!」
いちるが笑うのは不安の裏返しだろう。
「確かに、僕もワクワクしてきた」
いちるといると不思議と笑顔が出て来るのだからそこはいちるの才能というものだろう。
「あ……ねえ、もしかしてキミも妙なアンケート、やらされたコトある?」
ふと思い出したと武藤は言った。
「うん、あった」
思い出したのは図書館でのアンケートだ。どうにも嫌な思い出の過るアンケートではあったが。それを知らないいちるは無邪気にポンと手を叩き。
「やっぱり! あの紙の裏面、変な質問だったもんね。結構昔のコトだったから、すっかり忘れてたけど」
「昔の事だし、覚えている方が変だよ」
いちるは忘れていたようで、切也は自嘲を交えて苦笑した。
「アレでキミやあたしみたいな《眼》を持っている人を探してたみたい」
いちるの言う《眼》――。
心当たりはいくつかあった。「見えないものが見える」ようになるという目らしい。
「……」
黙りこくるのは学校での嫌な思い出が過ったからだ。
――私は切也の事、信じるからね!
それでもどうにか性根を曲げずに済んだのは一番上の姉が励ましの言葉を掛けてくれたからだ。
「こんなの、たまに不思議な物が見えるくらいだと思ってたのに一体、何なんだろ」
「……」
とはいえ嫌な思い出しかないのだから会話は続かない。いちるも似た思い出を持っているのだろう、辛そうだ。
「そういえばもう一人、やっぱり別の学校の制服着た男の子が来てるよ」
わざわざ話題を変えたのはやはり不安を紛らわすためだろう。
「……えっーと、あれ? そういえば、集合場所ってどっちだっけ……」
いちるもまた肝心要の事を忘れていた。
「え? 二人揃って迷子?」
肩を落とす。樹海ではコンパスは役に立たないし、地図は落としてしまったのだから。
「おい、武藤ッ。男子《其ノ一》はいたのか?」
その時、茂みをかき分ける音と、野太い男の声が聞こえた。
「あ、伊佐地センセ! イケメン発見、確保~! こっちこっち~!」
いちるは切也の手を取り、元気よく言う。場違いともいえる言葉を聞いた声の主は手を頭に当て、
「あのなァ……」
大きく溜息を吐いた。
「俺は教師じゃないと、さっき説明したばかりだろ。まッたく……。誰がセンセーだ」
短髪の男――伊佐地は、大柄で鋭い眼光でいちると切也を見ていた。顔の傷跡から、只人ではないと思わされる。
――何者なんだろう……。
男の持つ剣呑な雰囲気に少し警戒してしまうのだが、
「あ、そっか。えっと……じゃあ、なんて呼んだらいい?」
いちるは少し困った顔をして、
「ん―……伊佐地……オジさ――」
「いや、いい。先生でいい。それにしろ」
それを聞いた伊佐地が苦い顔をしていた。
「あはは」
切也がこらえきれず吹き出すのだが、和んでばかりもいられない
「……で、そっちが井上切也か」
伊佐地は切也を見る。
「よく来たな。俺は、国立国会図書館収集部特務課の伊佐地大督だ」
そう言って、右手を差し出す。
「はい、よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
切也は握り返すが、違和感があった。伊佐地が姉と同じ意匠のグローブをしていたからだ。
「あの、伊佐地主任」
「何だ。俺に質問があるのか?」
切也が訊ねると伊佐地はきょとんとした顔をした。
「あ、いえ。井上咲夜って知っています? 僕の姉なんですが……」
「……井上だと。そうか、お前、井上の弟だったのか。こいつは機密も含まれるんでな、試験が終わったら話そう。それより、男子《其ノ二》はどうした?」
渋い顔をする伊佐地は回答は後回しにして、周囲を見回した。いちるの言っていた「もう一人」を探している。
「あれ……? さっきまで近くで一緒に探してたんだど……ドコいっちゃったんだろ」
いちるも見失ってしまったようだ。
しかし、そこに悲壮感はない、元気ないちると頼りがいのある伊佐地がいるのだから、安心感は段違いだ。
「どこだろう……」
切也も周囲を探すが、人影は見当たらない。
「あ、あそこ――」
もう一人を見つけたいちるは、上を指さしていた。
最後の一人は、木の上にいたのだ。
「あいつ、何だってあんなところに……」
死角だったと伊佐地は苦い顔。
「ねー! そんなとこ登って何してるのー!?」
いちるが叫ぶと、木の上にいる少年は視線を落とし、
「捜し物をするには、高いところの方がいい」
視界は良くなるのは事実だが、周囲を雑草に覆われているのだからあまり視界がよくはならないはずだ。
どうにも浮世離れしていると感じさせる少年だ。
「君って変わってるね」
また切也が吹き出した。
「だが――どうやらきみの機動力の方が上だったようだ」
少年が苦笑いをしたような、そんな気がした。
「いいから早く降りて来い。そんなとこに登ってたら、危ないだろうが」
伊佐地が言葉をぶつける。木から落ちれば擦り傷だけでは済まないからだ。
当然の言葉なのだが、
「危ない?」
少年はわからないという顔をする。伊佐地をからかったわけではない。
「これから行く場所の方が危ない……違うか?」
少年の言葉に伊佐地の顔が険しくなる。
「そうだ。だから俺がいる。俺の目の届かないところで勝手に危険に遭うな」
危険だから降りろと伊佐地が言う。
「木登りは慣れてないと危ないよ」
切也も降りるように促した。
「……わかった」
いきなり飛び降りたのには肝を冷やしたが。
「きみが、捜し物……。井上 切也か」
それも切也の目の前に降りてきたのだから。
「雉明 零だ。……よろしく」
驚いた切也もどう言ったらいいのか悩んでしまったのだが、思考を切り替えた。
「僕やいちるちゃんと同じ《眼》を持つ仲間なんだよね。よろしく」
「そう喜ばれると、どう答えていいのかわからないが……。よろしく」
切也が握手を求めると、雉明はやや戸惑ったような顔をした後、握手に応じた。
見た目通り、雉明はやはり浮世離れしている印象だ。
「ともかく、ようやくこれで全員揃ったな」
伊佐地が三人を整列させる。
「お前たちには、これからここで、試験を受けてもらう」
伊佐地が告げた言葉は――、
「日本OXAS認定《封札師》としての資格を問うためのな」
聞いた事のない言葉だった。
「ふう……さつし?」
首を傾げるいちるが切也の方を向くのだが、切也も知らない。
――お姉ちゃんも、その「ふうさつし」って事――?
伊佐地の言葉から読み取れたのは公務員である姉もその封札師ではないかと言うことぐらい。
「……カードアーカイバーと呼ばれる《カミフダ》収集のための極秘エージェントか」
雉明は知っていた。しかし、雉明は無表情。
「その為に、図書館は、ああやって《秘法眼》を持つ者を探していたんだな」
簡素過ぎるアンケートは、裏こそが真の狙いだと雉明は言った。
「雉明、お前、何故それを……」
伊佐地が鼻白んだ。正解だということ。
切也の姉である咲夜もその封札師らしいが、切也ですら知らなかったのだ。伊佐地が驚くのも無理はないというところか。
「……」
しかし、雉明は答えない。雰囲気が悪くなってくるのだが、
「えーっと……なんだかわかんないコトなんだけど……。そもそも、その《カミフダ》って一体、何なの?」
いちるの質問がその雰囲気を破った。いちるの質問は知らないものにとってもっともな事だからだ。
「一言で言うならば、人類にとっての《災厄》だ。古来より多くの人間を狂気に誘い、破滅へと導いた情報の凝縮……。その由来は定かないが、
嘗て地球上に栄えた超古代文明の遺産と言う説が有力だ」
「超古代文明……、ですか」
切也は話が飛び過ぎて理解が追い付かないと言う風な顔をする。余人が聞けば小説かアニメの見過ぎだろうと思うに違いない。
――でも僕たちの《眼》も同じようなもののかな……。
《秘法眼》とて十二分に怪しいものだからだ。とりあえず納得する事にした。
「それは時に一枚のカードであり、一冊の書物や、単なる紙片の形をしている事もある」
伊佐地が噛み砕いて説明してくれた。
「それを見抜く事が出来るのは、情報を視覚で捉える事が可能な眼を持つ者――つまりお前たちのような《秘法眼》を持つ者だけだ」
伊佐地、そして姉の咲夜もまた《秘法眼》を持っているのだ。
――だから僕の言う事を信じてくれたのかな……?
そう感じたのだが、心の中で首を横に振った。
――《眼》がなくたって信じてくれたはずだ。
サバサバとした性格だったが、頼りになる姉であり慕っていたのだから。
「詳しい事はこの情報端末に全部入っている」
と、伊佐地は携帯電話のような情報端末を投げ渡す。三人への配慮だろう。
「各々、時間がある時に確認しておくように」
伊佐地はそこで説明を終えた。自習も大切にしろという事だろう。
「うーん……人に悪さする《カミフダ》を集めるのが《封札師》ってのはなんとなくわかったけど、そんな正義の味方みたいなコト、あたしたちに……出来るの?」
いちるの疑問ももっともだ。《秘法眼》があるだけで対等に戦えるのかという疑問だ。警察や自衛隊のように武器も権限もないのだから。
「出来るさ。お前たちなら。いや――」
伊佐地はフッと笑い。
「これは、お前たちにしか出来ない事だ。《カミフダ》を見定められるという事は、それを正しく扱う力があるという事だからな」
危険な《力》を持つ事の恐ろしさを知っている者だからこそだという。《カミフダ》は自分たちが扱うものでもあるからだ。
「わかりました。力を持つことの重要性と危険性を肝に銘じておきます」
切也が頷く。
「後は、実際にやってみた方が早いだろう――行くぞ」
伊佐地はいい顔をしているとフッと笑った。
富士――風穴入口
伊佐地が案内したのは、人ひとり通れそうなぐらいある風穴だった。
「おお~! これ、洞窟!?」
いちるは洞窟の入り口を見てワクワクと言う風に気を高ぶらせている。
「この風穴は、古くから封札師の認定試験用に使われている場所だ」
そう言う伊佐地が出したのは、二の腕まで半ばまで覆うグローブだ。
「まずは、これを利き手に装着しろ。《カミフダ》の発動の発動を一度に五枚までサポートする封札師専用の装備だ」
言われた通り嵌めてみるが、妙な感覚があった。
「また《カミフダ》を持っていない場合であっても、《秘法眼》の持ち主であれば、手にした武器の能力を最大限に引き出す事ができる。
例え、どんなものであろうとな」
伊佐地の言葉が補強してくれた。このグローブは《カミフダ》を悪用する輩と戦うための装備でもあるのだろう。
「それから、これを渡しておく」
伊佐地が渡したのは一枚のカードだ。
「札、か……。《カミフダ》にしては、情報が少ないように見える」
雉明の言葉にいちるが怯えたような顔を見せると、伊佐地は、安心しろと言う。
「それは《特課試札》と言って通常より情報量を抑えた《カミフダ》」だ。それくらいなら封札師としての《印》を持たないお前たちでも、安全に扱う事が出来る
「試験用の人工の《カミフダ》なんですね」
切也が納得したと頷くと、伊佐地が三人の背を押す。
「それじゃ、しっかりやってこい」
「え……? ど、どういうコト?」
痛みに顔を歪めたいちるが振り向くと伊佐地は厳しい顔を保ったまま、
「言っただろう。やってみた方が早い、と。《封札師》の任務は、カミフダの発見と収集、及び――カミフダの悪用を目論む個人や組織から、その存在を護る事にある」
「それってつまり……」
いちるも驚いた顔を隠せない。
「カミフダだけでなく、悪者とも戦う……ってコト!?」
「……お前たちには、封札師としての戦い――つまり《秘法眼》が可能とするカミフダを使用した戦い方を学んでもらう」
現実離れした言葉に戸惑ういちるに伊佐地は言葉をぶつける。実戦形式の試験なのだ。
「俺は、モニタでお前たちの様子を見ながら、ここでサポートする」
伊佐地はそういうものの漠然とした不安はある。
――友達を励ますのは当然でしょ。
と、姉の言葉を思い出す。
「いちるちゃん、零君。大丈夫、僕がいるよ」
自分が前に出ると言った。収録の際、初めての収録に戸惑う新米のタレントをよく励ましていた。
「そうだ、この班の指揮権だが――井上、お前に預ける、いいな?」
それを聞いた伊佐地が判断を下す。もっとも浮足立っているいちるやポーカーフェイスを保ったままの雉明では不安があるのもあったが。
「わかりました。任せてください」
「よし、頼んだぞ」
頷いた伊佐地は二人に視線を向ける。
「誰か、依存はあるか?」
「んー、あたしは賛成、井上クンならしっかり引っ張ってくれそう。……あたし、方向オンチだし」
いちるは冗談を交えつつ、賛成した。
「雉明はどうだ?」
雉明へと視線を向けるのだが、
「おれは――」
雉明は少し困惑していたようだ。
「井上 切也。おれは、きみを、信じていいのか?」
「みんなこんな試験は初めてだし、不安になる気持ちは分かるよ。だから……、零くんも一緒に頑張ろう」
切也はフッと笑みを見せ、雉明の肩に手を置いた。
「……そうか、きみの笑顔には……不思議な力が、ある。わかった。きみを信じよう」
雉明も頷いてくれたようだ。
「よし、決まりだな。以降は井上を先頭に陣形を組んで行動しろ」
伊佐地は手頃な石に腰掛けて、端末を起動させる。
「それでは、これより封札師認定試験を開始する――」
伊佐地は三人に顔を向ける。
「――探査開始、健闘を祈る」
三人は顔を合わせて頷いた後、風穴へと踏み入れたのだった。
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