幽撃隊 13話 閉幕
無事、完結です。
青春謳歌コンテンツ
新宿区立暮綯學園高等学校四階――夜
戦いの後、気が付けば豪は一人で立っていた。
「どこだ……?」
周囲を見渡すが、誰もいない。
「……そうか、ここは」
――だから、私は怖れを持たない人間とここに来たかったの。
――斃して。
――必ずしも、真実を知ることがいいことは限らない。
――仕方ないわねッ。支我、ここで迎え撃つわよ!
深舟、少女の《霊》いや豪にとっては師匠か、支我、伏頼と、数々の言葉がよみがえる。自分が夕隙社に入ることになった切っ掛けとなる場所だった。
「豪……」
隠し部屋から出てきた佐吉の姿だった、模造刀を携えている。
「どこにいる?」
だが、佐吉から姿は見えていない。
――《霊》とは、人に知られる事のない存在です……。私たちが佇む姿も訴えかける声も……本来であれば、人が視たり、聴いたりする事はできないのです。
不意にワンピースを着た少女の《霊》の言葉がよみがえってきた。
「佐吉さん、豪は?」
そして、隠し部屋から深舟が出て、豪がどこにいるか訊ねるのだが。
「いや、ここにもいない……」
心なしか声に張りが失われているように感じた。そう感じるのは豪が《霊》になったゆえかもしれない。
――確かに、人の中には、あなたのように、《霊》の存在を感じることができる人もいます。でも、あなたたちにさえも、私たちの姿が視えなくなる時は来る。私たちの声が聴こえなくなる時がくる。
それが意味するところとはつまり……。
――私たち《霊》がこの世を去る時かもしれないし、何かが切っ掛けで私たちの存在が薄くなった時かもしれない。でも、その時は来ます。だって、私たちは幽かな存在なのですから。
今が豪にとっての「いつか」なのだと思い知らされた。
「待って、佐吉さん! 豪が」
深舟が呼び止める、消えようとしている豪を見つけたのだ。
「さゆり、じいちゃん!」
今度は感情を込めて、二人に手で触れようとするが、擦り抜けてしまう。
「嘘、もしかして消えかけてるの……?」
「そうみたいだ。だから俺が完全に消えちまう前に――」
と、豪が言った時だ。
「豪ッ!」
佐吉が拳を握り、豪を殴っていた。
素手では《霊》にダメージすら与えられないはずだが、悲しみと怒りの感情を込めた拳は普通に素手で殴られるより豪に響いたはずだ。
「お前を二代目と呼んだのはあの《霊》を斃すためではない!」
「じいちゃん……」
豪が頬をさすっていると、深舟が目に涙をいっぱいにためて、豪を見つめている。
「そうよ、豪にはやる事がいっぱいあるじゃない。私と一緒に授業を受けたり――」
「……だけど、俺は死――」
豪が死んでいると告げると、深舟が言葉を強引に割り込ませる。
「何言ってんのよ! 夕隙社で徹夜して編集長にどやされたり、下手だけど一緒にスイーツ作ったり、それに佐吉さんから二代目を継いだんでしょ? 鬼の平蔵を演じる夢はどうしちゃったの!?」
「それは……」
深舟の言う通り、悔いなら大いに残っている、やりたいことはたくさんある。
「何を言うか! 俺の名を継いだなら、意地でも帰ってこい!」
本来ならば、成仏を願わなければならないのはわかっている、無茶苦茶であることも。
「そうよ。遺体はちゃんと病院で保管してる。だから、生き返るチャンスはあるわ!」
深舟も引き止めようと怒鳴るが、
「ふたりとも……」
涙は霊体ゆえに出なかったが、豪は泣きたい気持ちでいっぱいだった。
「私たちだけじゃないわ。編集長も支我くんも、みんな、豪の帰りを待ってる」
「わかってるよ、ちくしょう……!!」
応えたいが、皆の言葉に応えられないもどかしさが豪にあった。だが、期待に応えたい気持ちが勝った。
「わかった、絶対帰って来る」
深舟と佐吉に応えるように豪がサムズアップと共にフッと笑い、こういった。
「さゆり、俺はいつでもお前のそばにいる、絶対にだ!」
「え……?」
精いっぱいの告白だった。告白というには、あまりにも様にならなかったが。
「それ、告白……?」
だから深舟も自分の耳を疑ってしまった。
「あァ、だから意地でも帰る! お前と、みんなのいるこの世に!」
だが、豪の言葉と裏腹に、豪の姿はうっすらと消えかけていた。
「豪ッ!」
強引に手をつなごうとするが、やはり《霊》ゆえか深舟の手は豪を擦り抜けてしまう。
「私、待ってる。みんなと夕隙社で待ってるから、絶対!」
「ああ、わかったッ!」
豪が深舟に手を振る。
ふと豪は急激に浮遊感に襲われた、まるで強風にでもあおられたかのように上へ上へと上がっていく。
――俺は絶対に帰る、みんなのもとへ!
少女の《霊》が言う通り、感情が《霊》の力になるというなら強く想えば、願いはかなうはずだと。
遺体は保存してあるという、自分の体に変えると、強烈にイメージする。
「俺が花道を歩くにゃ、まだ早いぜッ!」
そこで、豪の意識は拡散した。
豪の遺体は別の病院へと運ばれていた。普通の病院では診断不可能だからだった。
《ロゼッタ協会》――複数の《宝探し屋》を擁する《超古代文明》を調査する組織の病院へと入れられた。
――《霊》がかけたのは呪術の一種じゃろうよ。魂だけを強引に引っ張りだしたのではないかの? 彼に呪いをかけた《霊》を斃せばあるいは――。
《ロゼッタ協会》の医師の見解は豪の死は呪いによるものだと言っていた。
その豪の遺体を見張っていたのは二十代後半の青年――御神という。《ロゼッタ協会に所属》する《宝探し屋》であり職員でもある。
「ちょっと、呪いって本当?」
その御神に詰め寄るのは若林の弟子だ。彼女は仕事を終え、病室へとやってきた。
「そうらしい。僕は専門家じゃないから、ここに医師の判断に従うだけだよ」
「アンタ、仮にもあの先生の弟子でしょ。心霊治療もできるんでしょ!?」
さらには食ってかかるのだが、御神は首を横に振る。
「僕は師から心霊治療の全てを伝授されたわけじゃないからね……」
無理を言うなと御神は大きくため息をついた。
「待ってくれ」
「何よ?」
殴り掛からんとする若林の弟子を御神が手で制していると、遺体が動いたような気がした。
「動いただけじゃない、バイタルも回復してるぞ!」
計器を確認した御神が叫ぶ。
「嘘! 嘘じゃないわよね!?」
若林の弟子が叫んだ時だ、ドアがドンと勢いよく開いた。
入ってきたのは、深舟だ。全力で走ったのか息を弾ませている。
「豪は!?」
「今、バイタルが回復したのを確認した。生還だよ、本当によかった……」
御神が安堵の笑みを見せる。
「えっと……」
豪が所在なく病室にいる面々を見ている。
「豪!」
深舟が飛んで、抱きついてきた。
「えっと、あの、その、ただいま……」
赤面しつつ豪は帰還したのだと実感し、言った。
「おかえり、夕隙社へ!」
深舟は満面の笑みでそう叫んだ。
さて、この三神豪の話、ご清聴いただきありがとうございました。
この物語はここで終わります。彼と夕隙社がどのような未来を歩むのか――。
彼のこれから次第なのでしょう。幽霊捕物帖、これにて閉幕致します。
幽霊捕物帖 ―完―
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新宿区立暮綯學園高等学校四階――夜
戦いの後、気が付けば豪は一人で立っていた。
「どこだ……?」
周囲を見渡すが、誰もいない。
「……そうか、ここは」
――だから、私は怖れを持たない人間とここに来たかったの。
――斃して。
――必ずしも、真実を知ることがいいことは限らない。
――仕方ないわねッ。支我、ここで迎え撃つわよ!
深舟、少女の《霊》いや豪にとっては師匠か、支我、伏頼と、数々の言葉がよみがえる。自分が夕隙社に入ることになった切っ掛けとなる場所だった。
「豪……」
隠し部屋から出てきた佐吉の姿だった、模造刀を携えている。
「どこにいる?」
だが、佐吉から姿は見えていない。
――《霊》とは、人に知られる事のない存在です……。私たちが佇む姿も訴えかける声も……本来であれば、人が視たり、聴いたりする事はできないのです。
不意にワンピースを着た少女の《霊》の言葉がよみがえってきた。
「佐吉さん、豪は?」
そして、隠し部屋から深舟が出て、豪がどこにいるか訊ねるのだが。
「いや、ここにもいない……」
心なしか声に張りが失われているように感じた。そう感じるのは豪が《霊》になったゆえかもしれない。
――確かに、人の中には、あなたのように、《霊》の存在を感じることができる人もいます。でも、あなたたちにさえも、私たちの姿が視えなくなる時は来る。私たちの声が聴こえなくなる時がくる。
それが意味するところとはつまり……。
――私たち《霊》がこの世を去る時かもしれないし、何かが切っ掛けで私たちの存在が薄くなった時かもしれない。でも、その時は来ます。だって、私たちは幽かな存在なのですから。
今が豪にとっての「いつか」なのだと思い知らされた。
「待って、佐吉さん! 豪が」
深舟が呼び止める、消えようとしている豪を見つけたのだ。
「さゆり、じいちゃん!」
今度は感情を込めて、二人に手で触れようとするが、擦り抜けてしまう。
「嘘、もしかして消えかけてるの……?」
「そうみたいだ。だから俺が完全に消えちまう前に――」
と、豪が言った時だ。
「豪ッ!」
佐吉が拳を握り、豪を殴っていた。
素手では《霊》にダメージすら与えられないはずだが、悲しみと怒りの感情を込めた拳は普通に素手で殴られるより豪に響いたはずだ。
「お前を二代目と呼んだのはあの《霊》を斃すためではない!」
「じいちゃん……」
豪が頬をさすっていると、深舟が目に涙をいっぱいにためて、豪を見つめている。
「そうよ、豪にはやる事がいっぱいあるじゃない。私と一緒に授業を受けたり――」
「……だけど、俺は死――」
豪が死んでいると告げると、深舟が言葉を強引に割り込ませる。
「何言ってんのよ! 夕隙社で徹夜して編集長にどやされたり、下手だけど一緒にスイーツ作ったり、それに佐吉さんから二代目を継いだんでしょ? 鬼の平蔵を演じる夢はどうしちゃったの!?」
「それは……」
深舟の言う通り、悔いなら大いに残っている、やりたいことはたくさんある。
「何を言うか! 俺の名を継いだなら、意地でも帰ってこい!」
本来ならば、成仏を願わなければならないのはわかっている、無茶苦茶であることも。
「そうよ。遺体はちゃんと病院で保管してる。だから、生き返るチャンスはあるわ!」
深舟も引き止めようと怒鳴るが、
「ふたりとも……」
涙は霊体ゆえに出なかったが、豪は泣きたい気持ちでいっぱいだった。
「私たちだけじゃないわ。編集長も支我くんも、みんな、豪の帰りを待ってる」
「わかってるよ、ちくしょう……!!」
応えたいが、皆の言葉に応えられないもどかしさが豪にあった。だが、期待に応えたい気持ちが勝った。
「わかった、絶対帰って来る」
深舟と佐吉に応えるように豪がサムズアップと共にフッと笑い、こういった。
「さゆり、俺はいつでもお前のそばにいる、絶対にだ!」
「え……?」
精いっぱいの告白だった。告白というには、あまりにも様にならなかったが。
「それ、告白……?」
だから深舟も自分の耳を疑ってしまった。
「あァ、だから意地でも帰る! お前と、みんなのいるこの世に!」
だが、豪の言葉と裏腹に、豪の姿はうっすらと消えかけていた。
「豪ッ!」
強引に手をつなごうとするが、やはり《霊》ゆえか深舟の手は豪を擦り抜けてしまう。
「私、待ってる。みんなと夕隙社で待ってるから、絶対!」
「ああ、わかったッ!」
豪が深舟に手を振る。
ふと豪は急激に浮遊感に襲われた、まるで強風にでもあおられたかのように上へ上へと上がっていく。
――俺は絶対に帰る、みんなのもとへ!
少女の《霊》が言う通り、感情が《霊》の力になるというなら強く想えば、願いはかなうはずだと。
遺体は保存してあるという、自分の体に変えると、強烈にイメージする。
「俺が花道を歩くにゃ、まだ早いぜッ!」
そこで、豪の意識は拡散した。
豪の遺体は別の病院へと運ばれていた。普通の病院では診断不可能だからだった。
《ロゼッタ協会》――複数の《宝探し屋》を擁する《超古代文明》を調査する組織の病院へと入れられた。
――《霊》がかけたのは呪術の一種じゃろうよ。魂だけを強引に引っ張りだしたのではないかの? 彼に呪いをかけた《霊》を斃せばあるいは――。
《ロゼッタ協会》の医師の見解は豪の死は呪いによるものだと言っていた。
その豪の遺体を見張っていたのは二十代後半の青年――御神という。《ロゼッタ協会に所属》する《宝探し屋》であり職員でもある。
「ちょっと、呪いって本当?」
その御神に詰め寄るのは若林の弟子だ。彼女は仕事を終え、病室へとやってきた。
「そうらしい。僕は専門家じゃないから、ここに医師の判断に従うだけだよ」
「アンタ、仮にもあの先生の弟子でしょ。心霊治療もできるんでしょ!?」
さらには食ってかかるのだが、御神は首を横に振る。
「僕は師から心霊治療の全てを伝授されたわけじゃないからね……」
無理を言うなと御神は大きくため息をついた。
「待ってくれ」
「何よ?」
殴り掛からんとする若林の弟子を御神が手で制していると、遺体が動いたような気がした。
「動いただけじゃない、バイタルも回復してるぞ!」
計器を確認した御神が叫ぶ。
「嘘! 嘘じゃないわよね!?」
若林の弟子が叫んだ時だ、ドアがドンと勢いよく開いた。
入ってきたのは、深舟だ。全力で走ったのか息を弾ませている。
「豪は!?」
「今、バイタルが回復したのを確認した。生還だよ、本当によかった……」
御神が安堵の笑みを見せる。
「えっと……」
豪が所在なく病室にいる面々を見ている。
「豪!」
深舟が飛んで、抱きついてきた。
「えっと、あの、その、ただいま……」
赤面しつつ豪は帰還したのだと実感し、言った。
「おかえり、夕隙社へ!」
深舟は満面の笑みでそう叫んだ。
さて、この三神豪の話、ご清聴いただきありがとうございました。
この物語はここで終わります。彼と夕隙社がどのような未来を歩むのか――。
彼のこれから次第なのでしょう。幽霊捕物帖、これにて閉幕致します。
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